若い人の折々のことば

朝日新聞主催の中高生がつづる「私の折々のことばコンテスト2018」の最優秀賞などが紙面に紹介されていた。それは、心に響いた「ことば」とそのエピソードを作文にしたものだ。

 最優秀賞は高校2年生が中学2年の時、塾の成績が振るわず落ち込んで不安な心で帰宅途中、見知らぬおばさんにかけられた言葉。「あんさんが思っとるほど足下には何もなか、やけん前でも見て歩きんさい」。それで「次がんばればいいだけの話だ」と心が軽くなったという。

 私がこの「ことば」を読んで思い出したのが、坂本九さんの「上を向いて歩こう」だった。小学6年の冬、寒く暗い道を友だちの家から帰る途中、当時はやっていたこの歌がなぜか口から出て、心にしみた。上を向いて歩くのは「涙がこぼれないように」であり、なぜ涙かというと「一人ぽっちの夜」だからである。当時、人間しょせん一人、孤独な存在である、というような哲学的な見識があるはずもなく、友だちもいなくて寂しい思いをしていたわけでもなかったが、その後、悲しい時、寂しい時、なにかにつけ上を向いて歩こう、と私を励ましてくれた「ことば」である。皆さんにもきっとそのような心に響いた「ことば」があることでしょう。

 次の言葉は妙に面白かった。「はい、トイレ掃除――」。女子高校生が幼い頃、数え切れない間違いや誤りを重ねたていたある日、母親が叱らず、代わりにこの言葉を言ったという。優しさの中に厳しさがある母親の姿が浮かぶ。「行動で自分の心を整え、磨きなさいと、後になって教えてくれた」と書いている。悪さをすると何かと「罰掃除」という先生が昔はいた。皆嫌がらず半分面白がって掃除をしたものだ。

 次のことばも面白い。「わけわけ」。「年の近い妹2人。何でも『わけわけしてね』と親は言った。それが嫌で、ある時、お菓子を一人で食べた。後に残ったのはむなしさと妹の顔。わけわけは物だけでなく、優しい心や幸せだった」と高3の子が回想している。わけわけは幸せの基(もとい)。ともに食べ、ともに生きる。生きる原点だと思う。