戦や目先の利に依らずとも-ペシャワール報告- 

「ペシャワール会報」№124(2015年㋆㏠)の中村哲医師の「2014年度現地事業報告」を読みました。現地からの報告を聞きましょう。

 2014年12月、破壊と大混乱を残して欧米軍が去っていきました。あの軍事介入が何だったのか、「対テロ戦争」とは何であったのか、心穏やかにはなれません。「テロとの戦い」と言いさえすれば何でも正当化されるような狂気が、この十数年の世界を支配してきました。実際アフガニスタンでは、異を唱える者がテロリストの烙印を押され、容赦なく抹殺されていきました。その多くが国際テロ組織とは無関係な、弱い立場の人々でした。無差別爆撃による膨大な犠牲は、「二次被害」と呼ばれました。

 イスラム教徒に対する偏見が意図的にあおられ、人々の間に多くの敵対が作り出されました。病的な残虐行為や拷問は日常でした。だが、欧米軍兵士もまた犠牲者でした。その多くは貧しい階層の出身で、社会的事情で志願し、半ば駆り出された人々でした。少しでも良心を持つ者の一部は、自殺に追い込まれました。

 これが現地で見た「テロとの戦い」でした。細々とでも保たれてきた人間の英知とモラルは、これによって一挙に後退しました。欧米では預言者(筆者注:イスラム教の宗教的指導者のこと)を揶揄することが流行り、それが表現の自由であるとされました。…(中略)…

 このような世界をためらいつつ歩んできた日本もまた、良心の誇りを捨て、人間の気品を失い、同様に愚かな時流に乗ろうとしているように思えます。先は見えています。アフガニスタンを破壊した同盟者にならぬことを願うばかりです。

 しかし、現地事業のおかげで垣間見える世界は、全く逆のものです。少し目を開けば、戦や目先の利に依らずとも、多くの恵みが約束されていることがわかるからです。…後略