あの日に帰る、歌とともに

先日、新聞に「思い出の歌」特集が載っていた(朝日新聞7月8日)。恋人と別れて涙をこらえた日、戦争が終わったと実感した瞬間など、人生の節目にそっと寄り添ってくれた名曲たちが寄せられた、とある。

 思い出に残る歌は?のアンケートの1位は「なごり雪」(イルカ)、2位は「高校三年生」(舟木一夫)、3位は「神田川」(南こうせつとかぐや姫)と「故郷」(唱歌)。その他、「不思議なピーチパイ」(竹内まりや)、「リンゴの唄」(並木路子)、「里の秋」(童謡)、「東京の空」(小田和正)、「それが大事」(大事MANブラザーズバンド)、「タイガーマスク」の主題歌「みなし児バラード」(新田洋)、「あなたのすべてを」(徳永芽里)、「岸壁の母」(菊池章子)などなど、それぞれの人生にそれぞれの思い出の歌があることがわかる。

 あなたにとって、思い出の歌は何ですか。私は?いろいろある。小学1年の頃、姉と兄と3人で夜、裸電球の下で川の字に寝ながら、姉が「流行ってるのよ」と教えてくれた「バスガール」。今でもそらで歌える。3,4年生頃か、テレビもない時代、どこで覚えたか、「お富さん」「有楽町で逢いましょう」「黒い花びら」などを友だちと大声で歌いながら下校した日々。意味も分からず、無邪気なものだった。

 そして6年生の寒い冬休み、友だちの家からの帰り道、あたりはもう真っ暗。寒さに震えながらいつとはなしに「上を向いて歩こう」を口ずさんでいた。「ひとりぼっちの夜」「涙がこぼれないように」などのフレーズがなぜか心にしみてきた。もう、意味も分からず無邪気に歌っているのではない。後から思うに、この頃から思春期に入っていたのだなと。

 そして大学時代にまさに「神田川」の世界を経験した者としては(実際、短い期間だったが、神田川のそばに下宿していたこともあった)、この曲を聴くと気恥ずかしさとその頃のことが走馬灯のように目に浮かぶ。恋に恋した時代、憧れに憧れた年頃だったのだろう。

 人生に歌あり、歌に人生あり。