心を亡くさないために

今年のノーベル物理学賞に3人の日本人研究者が受賞した。エジソンが世に送り出した白熱電球にかわり、革命を起こしたとされる発光ダイオード(LED)。その普及のカギとなった青色LEDの開発・製品化に成功した業績に対してである。私たちの生活を劇的に変えたと言われる。21世紀の「ひかり」革命である。

 科学・文化は日進月歩。発明・発見により製品化され、世に普及すると生活が一変することがある。私の子ども時代では、何といってもテレビと自動車と洗濯機をはじめとする家電によって、生活スタイルが激変した。

 数年前、ある新聞社が「私たちの暮らしを変えたもの」というアンケートを採ったところ、一位はコンビニ、二位は携帯電話、三位はインターネット、四位はテレビ、という結果が出た。皆、速くて便利なところが共通している。

 様々な情報やサービスが速く、いつでも、身近で受け取ることができる。これらのものは確かに私たちの暮らしを変えた。それを象徴するように、ある会社の広告に、「買ったのは私の時間です」というコピーがあった。便利になることで時間に余裕ができた。ところがそうやって手に入れた時間を私たちは何に使っているだろうか。世論調査によると、家庭での親子の対話時間は一日平均5~10分という驚くべき結果が出ていた。

 効率性や生産性だけを考えた時間の使い方は、我が身と世界とを滅ぼす。私たちの社会に起こっている様々な異常な犯罪、心が不安定化し、混乱し、暴力化しているのは、速いスピードの中で非人間的な生活を強いられているのも一因ではないだろうか。

 忙しいという漢字は「心を亡くす」と書く。だから心を亡くさないうちに、忙しい生活をいったん止めて、静まる時間が必要である。一日のはじめに祈りから、一週のはじめに礼拝から始めることは、神を想い、自分を見つめ、心を取り戻す大切な時間となるだろう。そこから新しく創造された生き方が生まれる。祈りや礼拝の時間を大切にしたい。