あるラビ(律法学者)が神さまに、天国と地獄を見せていただきたいとお願いしました。神さまはこの願いを聞き入れて、預言者のエリヤにラビの冒険旅行の案内をするようにお命じになりました。
エリヤはまずラビをひろびろとした部屋に連れて行きました。部屋の真ん中に炉があって大きな鍋がグツグツ煮えたち、おいしそうなシチューができていました。その鍋を大勢の人が囲み、それぞれが長い柄のスプーンを手にしてシチューをすくっていました。
でも、そこにいる人は、誰もが青い顔をしてやせ衰えていて、見るからに元気がありませんでした。部屋の中は氷倉のように冷え込んでいました。スプーンの柄が長すぎて、せっかくのシチューを誰も口に入れることができないのでした。
部屋の外に出たとき、ラビはエリヤに、「今のおかしな部屋はどういうところですか?」とたずねました。「あれは地獄だ」とエリヤは答えました。
次にエリヤはラビを最初の部屋とそっくりの部屋に連れて行きました。部屋の真ん中に炉があって、やはり火が燃え、シチューのたっぷり入った鍋がグツグツ煮えたっていました。ここでも炉のまわりを長い柄のスプーンを持った大勢の人が囲んでいました。けれどもこの部屋の人たちは互いに話し合ったり、笑ったり、とても楽しそうでした。
二つの部屋の人たちはどういうところが違っていたのでしょうか?二つ目の部屋の人たちはスプーンを自分の口にもっていかずに、お互いに食べさせあっていたのです。
「なるほど、ここが天国なのですね」とラビはつぶやきました。(出典不詳)
『世界中から集めた深い知恵の話100』(編者 マーガレット・シルフ、訳者 中村妙子、女子パウロ会、2005)より掲載。
この話は他者(隣人)との関係性の問題ですね。他者とどう関わるのか。そのことが他者のみならず、自分をも幸せにする。共に生きることを具体的にわかりやすく教えてくれる寓話です。自己中心的な人には他者は見えてこないのですね。