人生は勘定の合わないことが多い

三浦綾子さんの『小さな郵便車』(角川文庫1991年)は、人生相談の回答14篇をまとめたものである。
 
 その中に「継母ゆえに子にそむかれた」方からの相談があり、三浦さんは「いつかわかってくれます。その日を待ってください」と励ましている。続けて「結果的にはどうであっても、わたしたちは、人のために為し得たことを、感謝すべきではないでしょうか。人に喜ばれると思ってしたことが、裏目に出るのが、とかく人生なのですから。」と感謝の気持ちの大切さを伝えておられる。

 その回答に「人生は勘定の合わないことが多い」と書かれ、「でも、わたしたちは、自分に返ってくるものが少
ないからといって、それなら、不真実に生きればいい、と思うでしょうか。もっとでたらめに生きればよかったと思うでしょうか。……多分そうではありますまい。」と、要は生き方の問題だといわれる。確かに私たちはそろば
ん勘定だけで判断し行動しているわけではない。良心や善意といった性質も合わせ持っている。

 さらに三浦さんは自分の体験を語りながら次のようにキリスト者らしい感想を述べておられる。「わたしは小さな者で、それほど人様のために生きている者ではありませんが、それでも自分なりに精一杯に、他の人に尽くしたことが幾度かあります。しかし、して上げたことで、かえって相手から誤解され、恨まれたり、他の人から笑われたり、……いわばさんざんな目に遭ったことが幾度かあります。……しかしそんな時、十のことをして、十の返しがあるとすれば、それは人にして上げたことにならないような気がするのです。充分なお返しがあれば、勘定だけはきっちり合いますが、それだけ神さまにほめていただく分がなくなるような気がするのです。むろんほめられるためにするわけではありませんけれど。」

 聖書に「天に宝をたくわえなさい」(マタイ6:20口語訳)とある。天国銀行では、勘定が合うどころかたくさんの利子(恵み、祝福)がついていることだろう。